
「ノーマライゼーションという考え方がありますよね。誰でも当たり前に生活できる社会、環境を作ろうってことだって習ったんですが、高齢者介護においてはどのように実践していけばいいでしょうか」
「よく勉強されていますね。ノーマライゼーションの基本的な考え方としてはその通りですね。では、今回は高齢者介護での実践も含めて、ノーマライゼーションの起源や歴史、考え方などを見ていきましょう」

こんな疑問を解決します
この記事の内容
ノーマライゼーションの起源や歴史、考え方、高齢者介護での実践について書いています
こんにちは、せいじです。介護業界に20年以上携わり、現在は主に初任者研修や実務者研修、介護福祉士筆記試験対策講座の講師をしています。
さて、介護福祉士の試験にもよく出題される人権に関する考え方として、ノーマライゼーションがあります。
ノーマライゼーションとは、障がい者や高齢者、妊婦、もちろん健常者でも当たり前に生活できる社会、環境を作りましょう、という考え方です。
今回は、ノーマライゼーションの起源や歴史、考え方、そして高齢者介護においてどのように実践していけばいいかについて解説します。
ノーマライゼーションとは?歴史や考え方について

ノーマライゼーションとは、障がい者や高齢者も含め、あらゆる人が普通(ノーマル)の生活ができるようにすること、そのような生活を保障すべきである、という考え方です。
いつ、どこで起こった考え方なのか、ノーマライゼーションの起源や歴史について見ていきましょう。
ノーマライゼーションの起源や歴史
ノーマライゼーションは、1950年代前半のデンマークにて生まれました。
知的障がい者の子供を持つ親の会が、障害があってもなくても、その年齢に合った普通の暮らしができるように、社会を変えていこうという運動を始めたのです。
当時のデンマークでは、知的障がい者は施設で隔離されて生涯を終える、というのが当たり前となっていました。
施設での生活は劣悪で、おおよそ人間としての生活からかけ離れていました。
人としての権利が守られているとは言い難い環境で、入所者は非常に苦しい生活を強いられていたのです。
親の会は、この状況を改善するために、運動を起こしたのです。
この活動には、知的障がい者施策の行政官であるニルス・エリク・バンク–ミケルセンがリーダーとして活躍しました。
バンク–ミケルセンは、自身がナチスの強制収容所に収容されていた経験から、知的障がい者施設に対して、まるでナチスの強制収容所を彷彿とさせるような生活だ、と感じていました。
そこで、運動を通じて、国へ要請書を提出したのです。
その要請書のタイトルに「ノーマライゼーション」を使用したのが、「ノーマライゼーション」という言葉の始まりになります。
要請書には「障害のある人も、障害のない人々と同じ生活と権利が保障されるべき」と記されており、バンク–ミケルセンは、知的障がい者を施設に隔離するのではなく、住み慣れた地域で共に生きてくことがノーマルであると主張しました。
この考え方は、1959年にデンマークの法律として成立しています。
ノーマライゼーションの8つの原理
その後、バンク–ミケルセンの影響を受けた、スウェーデン知的障害児者連盟のベンクト・ニィリエが、ノーマルな社会生活の条件をノーマライゼーションの理念として8つにまとめました。
8つの原理
- 知的障害のみならずあらゆる障害のある人々がノーマルな1日を体験する権利がある。
- ノーマルな1週間のリズムを体験する権利がある。
- ノーマルな1年間のリズムを体験する権利がある。
- 子どもから大人になっていくという、ノーマルなライフサイクルを体験する権利がある。
- 自己決定権と、個人としてノーマルに尊厳を受ける権利がある。
- その人の住む社会の文化習慣に則ってノーマルな性的生活をする権利がある。
- その国におけるノーマルな経済的生活水準を得る権利がある。
- その人の住む社会におけるノーマルな住居・環境水準を得る権利がある。
そして、ノーマライゼーションの考え方を、国際的に広めていったのです。
ノーマライゼーションの二人の親
以上のことから、ノーマライゼーションの提唱者であるバンク–ミケルセンは「ノーマライゼーションの生みの親」、そして、ノーマライゼーションを広めたベンクト・ニィリエは「ノーマライゼーションの育ての親」と呼ばれています。
高齢者介護におけるノーマライゼーション


「ノーマライゼーションって、知的障がい者の人権を守るところから生まれたんですね」
「そうなんです。そして、その後対象は広がり、どんな人でも当たり前に生活できるように、という考え方になりました。もちろん、介護が必要な高齢者も含まれます」

以前の介護施設
日本における介護は、1962年に現在の訪問介護、そして翌年の1963年には老人福祉法によって特別養護老人ホームなどができました。
当時の介護は、三大介護(食事・排泄・入浴を介護すること)とその他のお世話をすること、でした。
そして、老人ホームでは、できるだけ少ない人数で、より多くの要介護高齢者を介護できるように、施設の形もその中での生活も形作られていました。
部屋は多床室(四人部屋など)でプライバシーが十分に確保されず、食堂兼リビングでは、40〜60人が使用します。つまり、大人数が一堂に集まって、決まった時間にまったく同じものを食べていました。
食事以外も、1日の生活スケジュールが一律に決まっており、それに沿って要介護高齢者は生活しなければなりませんでした。
排泄はおむつ介助交換中心で、要介護高齢者が行きたいときではなく、介護職が交換できるときに対応する、食事も、お風呂も同じくで、施設は介護する側が中心の「介護の場」だったのです。
要介護高齢者は、老人ホームの中で、おおよそ人間らしい生活からはかけ離れた生活を強いられていたのです。
介護が必要になっても人間らしい生活を
そんな要介護高齢者の生活を改善しようと、1990年代の後半からユニットケアという考え方が誕生します。
現在のユニット型施設の元となったものです。
これまでの、介護をする側の都合で成り立っていた施設生活が、一人ひとりの要介護高齢者が人間らしく、そしてその人らしく生活できるように、という考えのもと、利用者中心の「生活の場」に変わったのです。
介護職は、要介護高齢者のお世話をするのではなく、一人の人として当たり前の生活ができるように支援しなければなりません。
つまり、単に介護が必要な人の生活を支援するのではなく、介護が必要になっても、私たちと同じように当たり前の生活ができるよう支援しなければならないということです。
それが、高齢者介護におけるノーマライゼーションの実践になります。
高齢者介護においてのノーマライゼーションとは?:まと

「私たち介護職は、介護の施設でも一人の人間として当たり前の生活を提供しなければならないってことですね」
「そうですね。介護とは自立支援。自立支援とは、その人が求める生活を実現する支援です。健常者は、自分の思うような生活を自分ですることができます。介護を受ける高齢者は、介護職の支援によって、それぞれの思うような生活ができるようにする、ということです」

この記事のまとめ
- ノーマライゼーションとは、あらゆる人が普通の生活ができる社会、環境にすること
- デンマークのバンク–ミケルセンによって提唱「生みの親」
- スウェーデンのベンクト・ニィリエが8つの原理に整理、広めた「育ての親」
- 老人ホームでも、当たり前の生活ができるよう、介護を実践する必要がある
ということで、今回はこの辺で終わりにしたいと思います。最後まで読んでいただき、ありがとうございます。