
「認知症の症状では、脳が病気で変化することによって起こる中核症状と、中核症状に環境が影響して起こるBPSDがあるって聞きました。BPSDって聞き慣れない言葉ですが、どんな症状なんですか?」
「BPSDは、昔は周辺症状と呼ばれていました。中核症状が核になって、その周辺に出てくる症状ということからです。現在は、BPSDが用いられていますね。代表的な症状としては、徘徊があげられます。症状の把握はm、認知症ケアでは欠かせない知識になります。詳しく見ていきましょう。」

こんな疑問を解決します
この記事の内容
認知症のBPSD(行動・心理症状)について書いています
こんにちは、せいじです。
介護業界に20年以上携わり、介護職として特別養護老人ホームで働いていました。
現在も、ケアマネジャーとして、日々利用者さんと関わっています。
その他、介護の研修の講師やコンサルタントの仕事をしています。
さて、現在要介護認定を受けている人の約半数、そして施設入所者の約8割が認知症とされています。
つまり、介護職をする上で、認知症ケアは欠かせません。
その認知症、症状を大きく分けると、中核症状とBPSDに分けられるのをご存知でしょうか。
介護職としては、いかにBPSDに適切に対応できるかが、認知症ケアの良し悪しに関わってきます。
BPSDの代表的な症状としては、徘徊や暴言、暴力などがあります。
周囲の人を困らせることの多い症状ですが、原因や対応方法を理解することで、認知症の方も含めて穏やかに生活することが可能になります。
というわけで、今回は認知症のBPSDについて詳しく解説します。
なお、認知症の中核症状については、下記のリンク記事をご覧ください(リンクは本記事の後半にもあります)
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認知症の中核症状をわかりやすく解説します
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認知症のBPSD(行動・心理症状)をわかりやすく解説します

では、認知症のBPSD(行動・心理症状)について見ていきましょう。
認知症のBPSD(行動・心理症状)とは
認知症のBPSDとは、脳の器質的な変化により起こる中核症状を核に、環境の要素が加わって発生する症状です。
たとえば認知症の利用者さんが、中核症状である記憶障害、見当識障害によって、自分が今いる場所やトイレの場所がわからない、それを正しく表現することができないといった状態にあるとしましょう。
利用者さんとしては、失禁しては困るのでトイレを探して歩き回るわけです。
ところが周囲から見ると、この行動はただ目的なく歩き回っているように見えます。
これがいわゆる「徘徊」と呼ばれるわけです。
徘徊は認知症のBPSDのひとつになります。
もし、介助者がその姿を見てトイレを探していると気づき、すぐにトイレ誘導すれば、徘徊はしなくて済みますよね。
そして、失禁することなく生活できます。
他にも、トイレの場所を示す標識が壁に貼ってあると、利用者さんはそれを見て自らトイレに行けるようになるかもしれません。
このように、環境整備をすることで改善でき、逆に環境によって作ってしまうこともあるのがBPSDなんですね。
BPSDには原因、理由がある
認知症の患者さんの徘徊などの行動は、昔は「認知症だから仕方がない」と片付けられていました。
ですから、徘徊する利用者さんがいれば、気がすむまで徘徊させてあげれば良い、といわば放置のような状態だったわけです。
そして、転倒などの事故を伴うリスクがあれば、徘徊できないように行動を制限する、つまり、椅子やベッドに縛り付けるなどして、自由に行動できないようにするといった身体拘束をしていました。
しかし、現在の認知症ケアでは、徘徊などのBPSDには原因、理由、目的があるとされています。
認知症の利用者さんは、目的なく歩き回っているのではなく、原因、理由、目的があって歩いているのです。
それらが解決しないうちは、解決できるまで歩こうとするのをやめません。
これは私たちに置き換えてみると当たり前のことですよね。
先ほどのトイレを探して徘徊するケースでも、トイレが見つかるまでは探すのをやめられるわけがありません。
なぜなら、やめてしまうということは、失禁することになるからです。
ですから、行動を制限されたとしても、なんとしてでもトイレに行こうとするでしょう。
つまり、認知症の利用者さんの行動を制限してしまうことは、利用者さんの行動をより駆り立ててしまうことになるんですね。
邪魔している介護職は、当然ながら利用者さんにとっては攻撃の対象になるわけです。
問題が解決するどころか、より一層大きくしてしまうことになりかねないのがわかっていただけるでしょう。
なので、私たち介護職には、原因、理由、目的にアプローチし、それを改善、解決することで徘徊という行為をしなくていいようにして差し上げる介護が求められているのです。
BPSD(行動•心理症状)の種類

ここからは、BPSDの種類について見ていきましょう。
BPSDの種類をまとめると、次のようになります。
BPSDの種類
- 徘徊・帰宅行動
- 攻撃的な言動・介助への抵抗
- 昼夜逆転
- 不潔行為
- 収集癖
- 異食行為
- 失禁
- 不安感・心気状態
- 強迫症状
- 抑鬱状態と無気力状態
- 幻覚
- 妄想
- 睡眠障害
それぞれ掘り下げていきます。
徘徊・帰宅行動
徘徊は歩き回ることを言います。
辞書で調べると「目的なく歩き回る」という意味になります。
認知症の徘徊は、はたから見ると目的なく歩き回っているように見えるため、徘徊という表現が用いられました。
記憶障害、見当識障害によって、自分が今どこにいるのか、目的地がどこにあるのかわからず、彷徨い歩く状態を言います。
また、外出しても家に帰ることができず、行方不明になるという問題も起こるんですね。
帰宅行動とは、自宅にいるにもかかわらず「家に帰る!」と言って外に出ようとすることを言います。
自宅から出て行ってしまうと、行方不明になるリスクとなります。
なお、認知症の方に対して徘徊という言葉は、厳密には正しくありません。
前述したように、認知症の方は目的があって歩いています。
ですから、以前から少しずつではありますが、「徘徊」という言葉を使わないようにしよう、という動きが見られます。
攻撃的な言動・介助への抵抗
認知症の利用者さんは、時に介護者に対して口調が荒くなったり、手が出たりすることがあります。
これは、中核症状によって相手の認識や行為の理解ができなくなり「なにをされるかわからない」といった恐怖心などが原因になります。
睡眠障害・昼夜逆転
中核症状の見当識障害によって時間の把握ができなくなってくると、睡眠障害を起こすリスクが上がります。
体内時計が狂うからです。
ですから、夜なかなか寝付けなかったり、夜中に目が覚めてそれ以降眠れなくなったりといったことが起こります。
睡眠不足が起こると、昼間の時間に寝る状況が発生します。昼に寝てしまうとますます夜に寝られなくなり、昼と夜が逆転してしまいます。
昼夜逆転が発生すると、介護者は夜間の対応が必要となり、睡眠不足で仕事に影響が出るなど、負担が急激に増加する事態となります。
不潔行為
不潔行為とは、便などの排泄物が理解できなくなり、適切に扱えなくなる状態です。
たとえば、便失禁をしてしまったとします。
すると、お尻が気持ち悪いという感覚に襲われます。
利用者さんは気持ち悪さから逃れるためにお尻に手をやりますが、失禁した便によって手が汚れてしまいます。
その手の汚れを解消するために、壁や服、布団などで拭き取ろうとする、そのような行為が、はたから見ると不潔行為となるわけです。
また、人によっては便が汚いものとして認識できなくなり、弄ったりする弄便、誤って食べてしまう異食行為が起こることもあります。
収集癖
いろいろな物を持ってきてしまう行為を収集癖と言います。
自分の周囲にある物を片っ端から集めたり、トイレに行くたびにトイレットペーパーを破って服の中に溜め込んだりといったことです。
他にも、外出したときに草木や石などを拾い集めてきてしまうといった行為や、買い物で同じ物を何度も購入してくるといったこともあります。
異食行為
食べ物ではない物を口に入れてしまう、食べてしまうといった行為です。
食べ物と思って食べようとすることもありますし、ただ単になんでも口に入れようとする、といったケースもあります。
ティッシュペーパーや飾っている草花、自分の着ている衣服のボタンなどもちぎって口に入れることがあります。
失禁
中核症状によって排尿や排便のコントロールができなくなったり、トイレの理解ができなくなり、トイレ以外のところで排泄をしてしまうといった症状です。
不安感・心気状態
認知症の初期症状として出てくるのが、不安感・焦燥感です。
不安感とは、具体的になにかがあるわけではないのに漠然とした不安に襲われる状態です。
その不安がもとになって、イライラやそわそわするといった焦燥感に襲われます。
ひどくなると、パニック発作を起こすこともあります。
また、身体のどこにも異常がないのに「自分は重大な病気なのではないか」と過度に心配するようになり、病院受診を繰り返すなどの心気状態が見られることもあります。
強迫症状
強迫症状とは、過剰なほど家の戸締まりを心配して何度も確認したり、手が汚れていると感じて繰り返し手を洗うといった症状です。
抑うつ状態と無気力状態
抑うつ状態とは、自分を責めるなどして精神的に落ち込む状態です。
悲観的な状態となり、引きこもってしまうことがあります。
一方の無気力状態とは、すべてにおいてやる気が出なくなる状態を言います。
認知症になる前の段階で見られることがあります。
幻覚
幻覚とは、存在しない人が見える幻視、本来は聞こえない声が聞こえる幻聴などがあります。
まるで本当に誰かと話しをしているように受け答えをします。
妄想
妄想とは、通常であれば考えないような発想、連想をする症状です。
代表的なものとしては被害妄想があります。
たとえば、デイサービスに通う妻や夫が浮気をしているのではないか、であったり、財布を盗られた、といったものがあります。
本人の中では確信となっているケースが多く、誤解を解消するのが困難なケースが多いですね。
認知症のBPSD(行動・心理症状)をわかりやすく解説します:まとめ

「認知症の方の行動には、必ず目的や原因、理由がある、この考え方をきちんと持っておくことが、認知症ケアには欠かせないってことですね!」
「そういうことですね。認知症の人は特別、という考え方ではなく、私たちと同じひとりの人間なわけですから、人に対して当たり前の接し方をすることが必要になります。この考え方を、パーソン・センタード・ケアというんですね。そちらもぜひ勉強して見てください」

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この記事のまとめ
- BPSDは、中核症状に環境という要素が加わって発症する
- 中核症状は防ぎようがないが、BPSDは環境を改善することで症状を抑えることができる
- 逆に、接し方なども含めた環境によって、症状を誘発してしまうことがある
繰り返しになりますが、BPSDは中核症状を核として発生します。
ですから、認知症ケアを実践するにあたっては、BPSDを理解すると共に中核症状の理解も必要となります。
ということで、今回はこのへんで終わりにしたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。