
「介護福祉士試験でエンパワメントって言葉が出てきます。エンパワメントってどんな意味ですか?また、どんなことをするんでしょう?」
「エンパワメントは、高齢者や障害者への支援で非常に重要なものです。専門職としては、必須の言葉と言っても過言ではありません。」

こんな疑問を解決します
この記事の内容
介護におけるエンパワメントの意味などをわかりやすく解説します
こんにちは、せいじです。介護業界に20年以上携わり、現在は初任者研修や実務者研修、介護福祉士筆記試験対策講座などの講師をしています。
さて、介護において非常に重要な用語として、エンパワメントがあります。
介護におけるエンパワメントとは「利用者の意欲、能力を引き出す関わり」のことを言います。
介護福祉士の試験でも出題されることがある言葉で、実際に介護をするにあたっても重要であるため、しっかりとおさえておいてください。
というわけで、今回は介護のおけるエンパワメントについて解説します。
【介護福祉士】エンパワメントとは?意味などをわかりやすく解説

では、エンパワメントについて見ていきましょう。
まずは、エンパワメントの言葉の歴史を紐解いていきたいと思います。
言葉ができた背景を知ることで、記憶しやすくなります。
エンパワメントとは?
エンパワメントとは、力(権限)を与えるという意味の「エンパワー」から派生した言葉で、「能力開花」や「権限付与」という意味の英語です。
人は誰でも能力を持っており、それが発揮できるよう、平等で公平な社会を実現する、という理念があります。
もともとは、20世紀にアメリカで起こった女性解放運動(ウーマンリブ)によって広がりました。
女性というだけで能力が低い人、とみなされ、社会的に排除されてきた中で、女性にも能力がある、発揮できる機会を与えろ、との運動が起こり、そこで用いられたのがエンパワメントでした。
その後、エンパワメントは広がりを見せ、世界の先住民運動や市民運動、そして企業でも使われるようになりました。
上司が部下をエンパワメントする、といった使い方です。
企業におけるエンパワメントとは、部下に権限を付与し、能力を開花させる目的で行われます。
本来、上司の指示のもと働くのが部下ですが、これではなかなか仕事での能力が向上しません。
なぜなら、やらされ感を抱えるようになってしまうからです。
人間、やらされ感で仕事をするよりも、主体的に考えて行動する方が、意欲も向上し、能力も成長しやすくなります。
ですから、上司が部下に自分のもっている権限の一部を移譲し、部下が自ら考えて行動できるようにすることで、部下の能力をアップさせよう、というのが狙いです。
上司の権限を移譲することにより自ら考え、行動できるようにすることで、社員個人の能力が向上し、組織の底上げが図られるようになりました。
そして、エンパワメントの考え方はさらに広がっていき、医療、介護分野でも用いられるようになったのです。
医療・福祉(介護・障害者)分野におけるエンパワメントとは
医療・福祉分野ににおけるエンパワメントとは、老化や障害、病気などによって、自立した生活が困難になり、自分らしい生活をすることに意欲を失ってしまった人に対して、意欲や能力を取り戻すための関わりです。
介護が必要になった方は、それまで当たり前にやってきた、そしてほとんどの人が当たり前にやっている日常生活行為ができなくなります。
自立したい、自分の思うような生活がしたい、という欲求が満たされない状態が続くと、意欲を失ってしまう、つまりパワーレス状態になります。
支援者は、パワーレス状態になった要支援者に対して、もう一度自分らしく生きていこう、できることをやろうという意欲、能力を引き出す関わりをしていくのです。
このような支援が、医療・福祉分野でのエンパワメントになります。
要介護高齢者に対する具体的なエンパワメント
自分で日常生活を完結できなくなり、それまで担っていた社会的な役割、家族の中での役割を果たせなくなった、それどころか、家族やその他の人の手を借りなければ、日常生活ができなくなった要介護高齢者は、自分の価値を見失ってしまいます。
自分にはもう価値がない、生きている意味がない、人に迷惑をかける存在になってしまった、そんな意欲を失った状態の要介護高齢者に対して、もう一度自分に価値を感じられるような関わりをしなければなりません。
具体的な支援としては、要介護高齢者の声に耳を傾け、そして、人の役に立っているという思いが持てるような役割づくりをしていくことで、自分の価値を見出すことができ、自分らしく生きることへの意欲を取り戻すことができるようにになります。
介護に関係する利用者以外へのエンパワメント


「利用者さんの自立支援をしていくためには、本人の意欲がとても重要になりますものね。その意欲を取り戻す支援、これは欠かせませんね」
「精神的な意欲がなくなると、どれだけ身体能力があっても行動できませんからね。ちなみに、エンパワメントが必要なのは利用者さんだけではありません。他にもエンパワメントしていく相手がいるんですよ」

家族に対するエンパワメント
介護職は、要介護高齢者や障害者を家で介護する家族に対しても、エンパワメントの視点を持って関わらなければなりません。
なぜなら、家族の介護力を支えることが、自宅での生活を継続することにつながるからです。
家族に対するエンパワメント
- 家族の介護に対する負担を軽減し、介護への意欲を取り戻せるように支援する
- 家族に介護技術などを指導し、介護力を高める
自宅で介護をするということは、心身ともに非常に負担のかかることです。ですから、どれだけ対象者に想いを持っていても、長期間続くと疲弊して意欲が低下してしまったり、時には失ってしまうこともあります。
介護職は、家族の介護に関する日々の悩みを聞いたり、苦しみ聞いたりすることによってガス抜きをし、低下した介護への意欲を取り戻すことができるよう支援するのです。
また、介護技術を指導することも、家族のエンパワメントになります。介護技術を高めることは、本来持っている能力を開花させる、引き出すことになります。
介護技術が上がることは、家族の介護負担の軽減につながります。
負担が軽減すれば、自宅での介護が継続できるかもしれない、と将来への光を見出せることになり、低下した意欲を取り戻すことができ流のです。
専門的には、レスパイトケアのひとつになるわけですね。
自宅で生活を継続するためには、家族の介護力が重要になります。家族の介護への意欲を高め、そして介護の負担を軽減することにより、高齢者の自宅での生活を継続することにつながるということです。
職員に対するエンパワメント
者や障害者の支援をする事業所のサービスの質をあげていくためには、職員の意欲、
高齢者や障害者の自立を支援していくためには、介護職などの職員の介護に対する意欲、能力を引き出すことが重要です。
企業で行われているような、上司の権限の移譲などによって、介護職が自ら考え、それを実施できるやりがいのある職場づくりが、サービスの質を高めていくことになり、高齢者や障害者の自立につながるからです。
【介護福祉士】エンパワメントとは?意味などをわかりやすく解説:まとめ

「エンパワメントは、高齢者や障害者の自立に向けた支援で用いるだけでなく、その人たちの生活を支える家族、そして介護職にも必要なことなんですね」
「現在の社会は、昔と違ってポジションパワーの時代ではありません。立場によって強制的にさせるのではなく、引き出す能力が必要になってきます。そういう意味では、あらゆる場面でエンパワメントが必要になってくるということですね」

この記事のまとめ
- エンパワメントは、日本語で「能力開花」「権限移譲」という意味
- 介護においては、もう一度自分らしい生活を取り戻すために、利用者の意欲、能力を引き出す関わりを言う
- 利用者だけでなく、家族、職員に対しても、エンパワメントは重要
ということで、今回はこの辺で終わりにしたいと思います。最後まで読んでいただき、ありがとうございます。