
「利用者さんからのセクハラに悩んでるんです。身体を触ってきたり、卑猥なお話しをされたりするんですよね。でも、認知症を患ってたり、身体が不自由な人が相手なので、どこまで拒絶していいのか難しいんです。セクハラを防ぐためには、どのような対応をすればいいですか?」
「介護の現場で、利用者からのセクシュアルハラスメントに悩んでいる人は少なくありません。介護職だから我慢しなければならない、という考えの人もいて、誰かに相談できずにひとりで抱え込んでしまうことが多いです。でも、そんな状態で仕事をするのは辛いですよね。正しい解決方法を見ていきましょう」

こんな悩みを解決します
この記事の内容
介護現場で、利用者からのセクシュアルハラスメントを解決する方法について書いています
こんにちは、せいじです。介護業界に20年以上携わり、複数の施設で施設長を経験しました。現在はコンサルタントとして、施設、事業所の離職防止に取り組んでいます。
さて、介護職が業務上で悩むことがらとして、利用者からのセクシュアルハラスメントがあります。
卑猥な発言や、身体を触ってくるといった利用者の行動が、精神的な負担となっている人も少なくないはずです。
実際に、セクハラを苦にして退職に至るケースもあります。
解決したいけれど、介護職という仕事の特性上、ある程度やむなしという事業所の空気もあって、なかなか相談できない、解決できない、と悩んでいる人もいるのではないでしょうか。
というわけで、今回は介護現場の利用者からのセクシュアルハラスメントの解決方法について解説していきます。
セクシュアルハラスメントとは?

では、まずはセクシュアルハラスメントの定義について見ていきましょう。
セクシュアルハラスメントの定義
厚生労働省が示している職場でのセクシュアルハラスメントの定義は、以下のようになっています。
職場において行われる、労働者の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されること
厚生労働省より
厚生労働省の提示しているものには、会社の上司や同僚に限らず、利用者やその家族もセクシュアルハラスメントの行為者になるとされています。そして、セクシュアルハラスメントの被害者は女性と思われがちですが、男性も被害者になり得ます。
セクシュアルハラスメントの内容
次に、どのような内容がセクシュアルハラスメントに該当するのかについてまとめておきます。
セクハラに該当する内容
- 性的な内容の発言:性的な事実関係を訪ねること、性的な内容の情報(噂)を流布すること、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すことなど
- 性的な行動:性的な関係を強要すること、必要なく身体へ接触すること、わいせつ図画を配布・提示すること、強制わいせつ行為、強姦など
性的な嫌がらせだけでなく、食事やデートへの執拗な誘い、もセクハラになる場合があるということです。
この他、職場におけるセクシュアルハラスメントは、次のような種類にわけられます。
セクハラの種類
- 対価型:性的な要求に応えないと、仕事上で不利益を受ける。たとえば、仕事を任せてもらえない、解雇される、減給や降格、昇進の機会をなくす、客観的に見て不利益な配置転換など
- 環境型:労働者の意に反する性的な言動により、労働者の就業環境が不快なものとなり、能力が発揮できない環境になること、たとえば、上司が身体を触ってくる、性的な発言を繰り返す、同僚がパソコンなどでAVを鑑賞しているなど
繰り返しになりますが、同様の行為を利用者や家族がした場合も、セクシュアルハラスメントになります。
介護職が利用者から受けるセクシュアルハラスメントの具体例


「上司や先輩からのセクハラもなかなか深刻ですね。その他、私のように、利用者からセクハラを受けるケースにはどのような内容があるんですか?」
「利用者からのセクハラも、上記の内容とそれほど変わりません。現場で実際にあったセクハラについて見ていきましょう」

介護中などに利用者に不必要に身体を触られる
- 介助をする際に、胸や腰、お尻などを触られた
- 介助をする際に、必要以上に身体を触られた
- 抱きついて離れてくれなかった
- 服の中に手を入れようとされた
- 脱衣室で屈んで介助をしていたら、背後に座っていた利用者がパンツの中に手を突っ込み、直にお尻を触られた
隠部を触ることを要求されたり、卑猥な発言をされる
- 排泄介助時に陰部を触るよう求められた
- 入浴介助時の洗身の際に、隠部を必要以上に洗うことを求められた
- プライベートでの性的な営みについて、執拗に聞かれた
サービス中にテレビでAVを鑑賞する
- 掃除のサービスを提供する際に、テレビでAVを流された
- テーブルの上に、避妊具が置かれていた
- 利用者の交際相手との営みを、聞いてもいないのに聞かされた
セクシュアルハラスメントへの対処方法


「セクシュアルハラスメントって、加害者は冗談半分のつもりかもしれないですけど、被害者は本当に辛いんですよね。とはいえ、その場の空気を悪くしたくないし、こちらも冗談としてかわさないといけないのかな、真剣に起こったらダメなのかなとか考えてしまって、なかなか不快感をはっきりと伝えられなかったりします」
「セクシュアルハラスメントの問題は、そこにありますよね。加害者と被害者の意識の差です。もちろん、重点をおくべきは被害者の受け取りになります。まずははっきりとノー!を言うことが大事ですね」

判断能力のある利用者の場合
冗談ぽくやんわりと拒絶したり、話しを逸らしたり、といった対応は、解決するのに効果が低いです。
なぜなら、利用者は真剣に受け取らず、ともすれば介護職も本当は嫌がっていない、楽しんでいるのでは?と都合よく解釈することさえあります。
ですから、はっきりと「やめてほしい」という意志を伝えてください。
それでもおさまらない場合は、事業所の上司やケアマネジャー、利用者自身の家族に相談する旨を伝えましょう。
本気度が伝われば、相手の行動が改善される可能性が高くなります。
セクハラがあった場合は、必ず上司に報告してください。
もしかしたら、他の介護職も被害にあってるかもしれませんし、これからあう恐れもあります。
情報を共有しておくことで、早期に対策を講じ、被害を減らすことができます。
認知症の利用者の場合
認知症を患い、正しく認知、理解できない状態である場合は、はっきりと拒絶しても効果がないことがあります。
拒絶が正しく理解されなかったり、たとえ認知できたとしても、記憶障害により、忘れてしまう可能性が高いからです。
ですから、いつまで経っても改善されないことがあります。
介護の専門職としては、認知症の利用者のセクハラは、単にセクハラとしてだけではなく、なぜセクハラをするのか、にアプローチすることも重要です。
精神的な寂しさや不安から、セクハラに至っていることもあります、
この場合は、直接的にセクハラを咎めるのではなく、精神面を支えることでセクハラがおさまるかもしれません。
専門的な視点も忘れずに取り入れるようにしてください。
どうしても改善しない場合は、同性介護での対応であったり、セクハラが発生しない介護職に担当を代わってもらうなどするのも解決策になります。
家族からの場合
訪問介護で自宅に訪問した際や、施設の面会で家族と会い、食事などプライベートでのお付き合いを執拗に迫られるといったセクハラが発生する場合があります。
こちらも、利用者と同様毅然とした態度で断りましょう。
食事の誘いをされると困る、そして、食事を共にすることはできないことを、明確に伝えてください。
セクハラをする人の中には、断りを入れても、介護職の立場上しかたなく断っているだけで、本当は誘われて嬉しく思っている、本心は行きたいと思っている、といった、自分勝手な妄想に走る人がいます。
深刻な状態になると、ストーカーに発展する場合もあります。
家族にはっきり言うのは難しい、と感じる人も少なくないでしょうから、上司から注意してもらう、というのが解決策としてベターと言えるでしょう。
介護職を悩ませる利用者からのセクハラ!対処方法を解説します:まとめ

「嫌だ、という意志を明確にする、上司や事業所、ケアマネジャーなどを抑止力に使う、ということですね。」
「そうですね。そして、改善されないようであれば、実際に上司やケアマネジャーに対応してもらいましょう。必要であれば、サービスの担当から外してもらうのもひとつの対策です。そうするためにも、普段から随時相談するようにしてください。セクハラはなにも恥ずかしいことではなく、サービス中に実際に起こったできごとです。ですから、当然介護記録に残しておく必要がありますからね。くれぐれもひとりで抱え込まないようにしてくださいね」

この記事のまとめ
- 利用者からのセクハラには、直接的に身体に触ってくるなどするもの、卑猥な発言などをしてくるものがある
- 家族からは、食事などに執拗に誘うなどのセクハラがある
- 冗談ぽく、ではなく、はっきりと「嫌だ」ということを伝える。それでも改善されないようであれば、上司やケアマネジャーに相談する旨を伝える。
- 認知症の利用者などは、専門的な視点からも解決方法を考える。解決がむずかしいようであれば、同性介助や担当を変更してもらう。
ということで、今回はこの辺で終わりにしたいと思います。最後まで読んでいただき、ありがとうございます。