
「高齢者の食事介助の方法を教えてください。基本の方法や注意点などが知りたいです」
「高齢者の食事解除をする場合は、高齢者の特徴をふまえた上で行う必要があります。食事介助の基本的な方法、手順と合わせておさえておきましょう」

こんな疑問を解決します
この記事の内容
高齢者の食事介助の基本、注意点などについて書いています
こんにちは、せいじです。介護業界に20年以上従事し、現在は初任者研修や実務者研修の講師をしています。また、現場での技術指導も行なっています。
さて、介護の中でも重要なものとして、食事介助があります。
食事は生きていく上で欠かせませんし、生活において大きな楽しみでもある行為です。
安心、安全に、そして楽しめる食事の提供が、利用者の生活の質に影響してくるんですね。
というわけで、今回は高齢者の食事介助の基本や注意点などについて解説します。
高齢者の食事の留意点

では、まずは食事介助をするにあたって、高齢者の食事に関する留意点について見ておきましょう。
加齢によって、高齢者の口腔、消化器官の状態は変化していきます。
その変化を把握した上で支援することが、安全で楽しい食事につながります。
留意点をまとめると、次のようになります。
高齢者の食事の留意点
- 噛む力が低下する
- 飲み込む力が低下する
- 味を感じにくくなる
- 消化能力が低下する
噛む力が低下する(咀嚼力の低下)
高齢者になると、噛む力が低下し、食べ物を咀嚼することがしづらくなります。
咀嚼力が低下するのは、虫歯や歯の欠損、舌の機能低下、顎の力の低下、唾液の分泌量の減少によります。
ですから、食べ物を飲み込める状態である食塊をうまく作ることができず、喉につめる、消化不良、といったことが起こりやすくなります。
飲み込む力が低下する(嚥下力の低下)
咀嚼した食べ物を、ゴクっと飲み込む力、つまり嚥下力も低下します。
嚥下力の低下は、喉詰めや誤嚥発生のリスクを高めます。
また、食事が大変になり、楽しみが低下してしまう可能性があります。
味を感じにくくなる
加齢によって、味を感じる力も低下します。ですから、どうしても濃い味付けを好むようになります。
その結果、塩分の過剰摂取などにより高血圧のリスクが上がるなど、生活習慣病の原因になることがあります。
しかし、薄い味付けだとおいしく感じられず、食欲の低下につながることがあります。
消化能力が低下する
歳を取ると、消化器系の機能も低下します。消化器系の機能が低下すると、消化不良が起こりやすくなり、便秘や下痢の原因となります。
消化不良を避けるために、しっかりと咀嚼することが必要ですが、高齢者は口腔機能も低下しているため、しっかりと噛むことがむずかしいんですね。
ですので、あまり咀嚼しなくてもよい食事形態、具体的には、刻み食と呼ばれる、最初から細かく刻んである食事を提供するなどの工夫が必要になります。
食事前に必要な準備


「なるほど。食事介助をする前に、高齢者の食事に関係する機能をしっかりと把握する必要があるんですね。そうじゃないと安全に食事を楽しんでもらうために、どんなことに気をつけないといけないかがわかりませんものね」
「そうですね。そして、食事をする前の準備も大切なんです。見ていきましょう」

口腔体操、嚥下体操を行う
安全においしく食事できるように、食事の前に口腔体操、嚥下体操を実施しましょう。
高齢者は、唾液の分泌量が低下し、舌の動きなども悪くなります。
食事前に舌や口腔内を動かしたり、また、首周りをマッサージすることで、唾液の分泌を促したり、口腔内の動きを良くすることができます。
その結果、嚥下状態も良くなるんですね。
排泄を済ませる
食事中にトイレに行きたくなると、食事に集中することができません。
また、トイレに行くことになれば、食事を中断しなければなりません。
ゆっくりと、落ち着いて食事ができるよう、先に排泄を済ませておきましょう。
テレビを消す
テレビをつけたまま食事をすると、食事に集中できなくなります。
そして、テレビに気を取られることで、誤嚥のリスクが高くなります。
また、認知症のかたでは、テレビに気が散って食事を食べなくなってしまうこともあります。
ですから、食事中はテレビを消すようにしてください。
代わりに、リラックスできるBGMを流すなどして、落ち着いて食事できる環境を作りましょう。
献立を説明する
今日はなにを食べるのか、献立をあらかじめ知っておくことも、生活の中での楽しみのひとつになります。
ですから、あらかじめ献立を伝え、食事に楽しみが持てるようにしましょう。
姿勢を確認する
安全に食事を食べるためには、食事の際の座位姿勢も重要です。
正しい姿勢で座ることによって、誤嚥のリスクを軽減することができるからです。
利用者がきちんと座れているか、チェックしてください。
正しい座位姿勢のチェックポイントをまとめると、次のようになります。
正しい座位姿勢のポイント
- 足底が床にしっかりついているか(足首が90度になっている)
- 椅子の高さがあっているか(膝が90度になっている))
- 座席の奥までしっかりと座れているか(腰が90度になっている)
- テーブルの高さが合っているか(テーブルに腕を乗せて肘が90度程度になっている)
ポイントは90度という角度です。足首、膝、腰、肘が90度ぐらいになっているかどうかを確認してください。
手指洗浄、消毒を行う
食事の前には、手洗いをしてもらいましょう。そして、手を洗ったら、手指消毒を実施してください。
感染症などを防止するためです。
もし、手を洗うことができない方は、手指消毒をしっかりと行うようにしましょう。
これは、自分で食事ができない方にも実施してください。
手を洗うことによって、今から食事をする、という気持ちになれるからです。
私たちは、食事前に必ず手を洗いますよね。それは 長年の習慣になっています。
ですから、たとえ自分でご飯が食べられなくても、手を洗う、消毒する機会を設けるようにしましょう。
食事介助の基本的な手順や方法


「食事前に必要な準備が整いました。次は実際の食事介助になりますが、どんな手順でやっていったらいいんですか?」
「そうですね。実際の食事介助についての手順を見ていきましょう」

エプロンをつける
食事の準備ができたら、エプロンをつけてもらいます。
食べこぼしなどによって、衣服が汚れてしまわないためです。
ただし、介護者からすると、エプロンをつけることで少々食べこぼしがあっても大丈夫、と思ってしまうかもしれません。
その結果、利用者のペースに合わせた食事介助への意識が薄らいでしまうことがあります。
ひいては、誤嚥の、そして誤嚥性肺炎の原因になることもあるため、介護職ペースにならないように注意してください。
本来、エプロンの目的は、完全ではないけれど自分でなんとか食べられる人が、食べこぼした場合に衣服が汚れないようにするためです。
介護職が介助する場合は、正しいやり方で、利用者のペースに合わせて行うことで、そうそう食べこぼしは起こらないはずですし、起こさないようにしなければなりません。
利用者の食事のペースに合わせることを、くれぐれも忘れないようにしてください。
介助者は目線の高さが合うように座る
食事介助する際は、利用者と介護者の目線の高さが合うように座ってください。
利用者が見上げる形になると、顎が上がりやすくなります。
顎が上がると、誤嚥のリスクが上がります。
ですから、介助者は必ず目線の高さが合うように座って食事介助するようにしてください。
食事の内容を説明する
食べ始める前に、まずは食事の内容を説明しましょう。
メインのおかずや小鉢、汁物などの内容を伝えてください。
今からなにを食べるのかがわかることで、安全に、そしておいしく食事することができます。
一口目の前に水分を摂ってもらう
一口目にまず水分を摂っていただきましょう。
口の中を湿らすことによって、咀嚼、嚥下しやすくなるからです。
これは、介助を必要としない私たちでも同じですね。
ですから、まずはお茶やお味噌汁といった水分で口を湿らせるようにしてください。
利用者のペースに合わせて食事を進める
エプロンのところでも書きましたが、食事介助する際は、利用者のペースに合わせて実施しなければなりません。
早く介助を終わらせるために、介助者のペースで行うと、利用者が誤嚥するリスクが高くなるからです。
食べこぼしが発生しないよう、利用者のペースに合わせて丁寧に行いましょう。
食事量、水分量の確認と口腔ケアの実施
食事が終わったら、食事、水分摂取量を記録しましょう。
日々記録することで、食事の状態を把握し、変化があった場合に気づけるようにするためです。
そして、口の中を清潔にするために、口腔ケアを実施してください。
うがいができる方はうがいを、できない方についてはガーゼなどで口の中を拭いてください。
口の中が不衛生だと、誤嚥性肺炎の原因となります。
食後は必ず口腔ケアを実施するようにしてください。
食事介助の注意点


「事前の準備や、食事介助の手順はわかりました。その他、食事介助中になにか注意しておくことはありますか?」
「食事介助中は誤嚥しないように注意が必要です。まとめると、次のようなことに注意を払いましょう」

食事介助中の注意点
- 顎が上がっていないか
- きちっと飲み込めているか
- しっかりと目が覚めているか
顎が上がっていないか
繰り返しになりますが、食事中に顎が上がっていると誤嚥が起こりやすくなります。
顎が上がることによって、気道が開いてしまうからです。顎が上がっているようなら、引けるように姿勢を改善しましょう。
たとえば、お尻が前にずれているような状態だと、上体は上を向いてしまいます。
上体が上を向くと、顎も上がることになります。
正しい座位姿勢が取れるようにしてあげてください。
きちんと飲み込めているか
食事介助中は、喉の動きを見てきちんと飲み込めているか確認しましょう。
観察していると、飲み込む際に喉仏が上下に動くのがわかると思います。
きちっと飲み込めたのを確認してから、新たに食べ物を口に運ぶようにしてください。
利用者の中には、口の中に溜め込む方や、食べ物が残ってしまう方がいます。
口を刺激するなどして、飲み込みを促してください。
しっかりと目が覚めているか
誤嚥なく食事をしてもらうためには、覚醒状態も重要です。
しっかりと覚醒していないと、誤嚥しやすいからです。
睡魔によってうつらうつらしていたり、ぼぉっとするような様子であれば、いったん食事をやめて休んでいただくという選択が必要になることもあります。
正しい食事介助の方法、基本や注意点などを解説します:まとめ

「食事介助の基本についてわかりました!さっそく実践していこうと思います」
「基本は同じですが、利用者さんによって個人差がありますからね。それぞれに合わせて、介助してください。利用者さんの生活で、食事は生活の楽しみの大半を占めます、食事が充実することで、生活の質は大きく変わります。食事介助、大切にしてくださいね」

この記事のまとめ
- 加齢に伴う口腔内などの変化に留意する
- 安全に、おいしく食事ができるよう事前準備する
- 基本的な手順を踏んで、食事を楽しんでいただく
- 誤嚥しないよう、食事中もしっかりと観察する
ということで、今回はこの辺で終わりにしたいと思います。最後まで読んでいただき、ありがとうございます。