
「認知症の方って、介護者が困るような行動をされますよね。それを問題行動って言うそうですけど、具体的にはどのような行動があるんですか?対策についても知りたいです」
「介護者にとって、認知症の方の行動は、時に問題を起こす行動として捉えられることがあります。それらを問題行動と呼ぶのですが、実は問題行動を作っているのは、介護者側であるケースが少なくありません。正しく理解して、問題行動を起こさなくて済むようにケアをしていくことが求められます。では、詳しくみていきましょうか」

こんな疑問を解決します
この記事の内容
認知症の問題行動の種類や対策について書いています
こんにちは、せいじです。
介護業界に20年以上携わり、介護職やケアマネジャー、施設長などを経験し、現在は介護の研修の講師やコンサルタントの仕事をしています。
さて、認知症には問題行動と呼ばれるものがあります。
問題行動とは、介護者が困るような認知症の方の行動の総称です。
ただし、認知症の方には問題を起こしてやろうという意識はなく、認知症の症状のひとつであるBPSD(行動・心理症状)によるものです。
ですから、関わり方次第で出てくることもあれば、問題にならないようにすることもできるんですね。
というわけで、今回は認知症の問題行動について解説します。
なお、BPSDについては下記の記事をご覧ください。
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認知症のBPSD(行動・心理症状)をわかりやすく解説します
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認知症の問題行動とは?

では、認知症の問題行動について見ていきましょう。
具体的な中身を見ていく前に、そもそも認知症の問題行動とはなんなのか、について触れておきます。
認知症の問題行動とは、認知症という病気によって起こる中核症状、たとえば、記憶障害、見当識障害、判断力の低下、理解力の低下などの症状と環境の要素が加わって出てくるもので、いわゆる、BPSD(行動・心理症状)のことです。
「問題行動」となっていますが、「問題」と感じているのはあくまでも介護者側であって、認知症の方が意図して問題を起こそうとしているわけではありません。
認知症の方からすると、自分に起こっている問題を表現したり、解決しようとしているだけです。
ですから、認知症の方に起こっている問題や困りごとが解決できれば、問題行動はなくすことができます。
認知症の問題行動の種類

次に、問題行動にはどのような種類があるのかについて見ていきます。
認知症の問題行動をまとめると、次のようになります。
認知症の問題行動
- 頻繁な立ち上がりや徘徊
- 暴言・暴力
- 介護拒否
- 物盗られ妄想などの被害妄想
- 性的な欲求が抑えられない
- 尿失禁・便失禁
それぞれ掘り下げていきます。
頻繁な立ち上がりや徘徊
認知症の方は、精神的に不安になったり落ち着かなくなることがあります。
また、なにかしら目的や原因、理由があって行動したいのに、行き先がわからないであったり、どうやったら解決するかがわからないといったことが起こります。
たとえば、トイレに行きたいのに場所がわからず、頻繁に歩き回るといったことです。
介護側からすると、転倒する危険があるのに立ち上がったり、歩き回ったりするため、目が離せなくなります。
危ないからと、立ち上がったり、歩き回らないようにしようとしても、認知症の方は目的を果たすために、なんとかトイレに行こうと頑張ります。
認知症の方の行動の目的が理解できていないと、介護側はなぜか立ちあがろうとする認知症の方の対応に追われて、介護負担が大きくなります。
暴言・暴力
精神的な不安や落ち着きのなさから、暴言や暴力が見られることもあります。
私たちでも同様ですが、イライラしているとつい口調が荒くなったりすることがありますよね。
そして、思うようにいかないと手が出てしまうこともあるかもしれません。
認知症の方にも同様のことが起こるのです。
認知症の方の暴言や暴力について、介護側としては精神的な恐怖を覚えることがあります。
介護拒否
精神的に不安定になっている認知症の方においては、介護を拒否する言動が見られることがあります。
認知症の方からすると、状況が理解できず、介護者に対して不安や不快な思いを感じるからです。
たとえば、仮にこれからする介護の内容を伝えて介護をしようとしても、理解力が低下している認知症の方は理解がむずかしいことがあります。
理解できない中で、知らない人が自分をどこかに連れて行こうとしたり、服を脱がそうとしたりするわけですから、恐怖感を覚えたり、不愉快な気持ちになります。
その結果、介護を拒否するといった行動が出てくるんですね。
そして、自分の身を守るために、暴言や暴力が見られることもあるのです。
物盗られ妄想などの被害妄想
認知症では記憶に障害が発生します。
初期の段階では、新しいことが覚えられない、すぐに忘れてしまう、といったことが起こります。
具体的には、自分で財布をしまったのに、しまったところを忘れてしまうというようなことです。
認知症では、しまったことを完全に忘れてしまう上に、被害的にとらえることが傾向があり、財布が見つからないと「誰かに盗まれた」と考えるようになります。
そして、盗んだ人については、普段自分の身近にいる人がターゲットになりやすいという特徴があります。
たとえば、同居している家族であったり、介護職が物取られ妄想の対象になりやすいんですね。
被害妄想が発生すると、認知症の方は人に対して不信感を持つようになるため、介護者の言うことを聞いてくれなくなります。
その結果、スムーズに介護ができなくなるため、介護負担が増大することになるんですね。
性的な欲求を抑えられない
認知症になると、性的な欲求を抑えられなくなる人もいます。
通常であれば、私たちは性欲を理性でコントロールし、人に不快な思いをさせないような行動をします。
しかし、認知症になるとその抑えが効かなくなることがあり、セクハラを起こすようになります。
尿失禁、便失禁
理解力の低下によって、尿意、便意が理解できなくなることがあります。
たとえ尿意、便意を感じても、正しくトイレで排泄するということができなくなり、失禁を起こしてしまうのです。
時には、トイレと間違えて自分の部屋やリビングで排泄してしまうこともあります。
後始末には手間がかかるため、介護側の負担となります。
認知症の問題行動への対処方法

ここからは、認知症の問題行動への対策について見ていきましょう。
対策をまとめると次のようになります。
問題行動への対策
- その人の世界を理解する
- 発言を否定しない
- 環境の変化をおさえる
- 服薬治療の実施
- 音楽療法や回想法などの実施
掘り下げていきます。
その人の世界を理解する
認知症の方が問題行動を起こすのには、目的や原因、理由があります。
ですから「認知症だから問題行動を起こすんだ」ではなく、なぜ、そのような行動をするのかを理解し、解決していくことが求められます。
そのためには、認知症の方の世界を理解する必要があります。
その人が生きている世界を知って、その世界に寄り添うことが問題行動を解決していく第一歩になります。
発言を否定しない
認知症の方の発言を否定しない、ということも、問題行動を解決していくための基本姿勢になります。
なぜなら、介護側からすると問題行動であっても、認知症の方にとっては、その人の世界で本当に起こっているできごとだからです。
たとえば「まだ食事をもらっていない」とおっしゃったとしましょう。
実際にはすでに食べておられたとしても、認知症の方の中では「食べていない」と言うのが事実なのです。
ですから、その事実を否定したところで、認知症の方は理解できません。
理解できないどころか、自分の中での事実を否定されるため、自分が正しいことを証明しようと興奮したり、逆に自分は頭がおかしくなったのではないかと不安に苛まれ混乱します。
問題行動がよりひどくなるだけなんですね。
介護側は、認知症の方が事実を理解できるように支援するのではなく、認知症の方が事実だと思っていることに寄り添い、問題が解決できるように支援する必要があるのです。
環境の変化をおさえる
高齢者になると、環境の変化に適応する能力が低下します。
認知症になるとさらに環境の変化に適応できなくなります。
大きな環境の変化が起こると、認知症の方は適応できずに混乱を起こします。
混乱すると、問題行動が激しく出現するんですね。
ですから、認知症の方の支援では、できるだけ環境が変わらないようにすることが重要になります。
服薬治療の実施
どうしても問題行動がおさまらないときには、場合によっては服薬治療が必要になることがあります。
安定剤を服用し、イライラを軽減したりすることで、問題行動の出現をおさえることができるのです。
ただし、薬での治療は最終手段になります。
できるだけ薬を使わないで問題を解決していくことが必要になります。
音楽療法や回想法などの実施
薬を使わないで問題行動を改善していく方法としては、これまで書いてきた「その人の世界の中で起こっている問題に対して、その人が穏やかに過ごせるように寄り添って」いくことであったり、音楽療法や回想法などの療法があります。
音楽療法とは、子供の頃などに馴染みのある曲を歌ったり、演奏したりすることによって、認知症の症状を改善する方法です。
また回想法とは、昔の写真などを使って、認知症の方の幼少期などを思い出してもらい、症状の改善や安定を図る方法です。
認知症の問題行動とは?その種類や対処方法を解説します:まとめ

「なるほど。問題行動というのは、あくまでも介護者側の受け取り方であって、認知症の方が問題行動をしようとは思っていないわけですね。単純に、自分のしたいことができなくて、困っている中で出てくる行動ってことですか」
「そういうことですね。ですから、その原因などにアプローチして解決すればいいわけです。問題行動は、認知症の方のコミュニケーション手段ということになりますね」

この記事のまとめ
- 認知症の問題行動とは、介護側にとって問題となる認知症の方の行動
- 認知症の方は、問題を起こそうとしているわけではなく、自分の中での目的などを達成したいだけ
- 介護側は目的や原因、理由にアプローチし、解決していくことで問題行動をなくすことができる
なお、認知症の症状についての詳細は、下記の記事をご覧ください。
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ということで、今回はこのへんで終わりにしたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。